海外現地採用という名の蟹工船 - ロバが旅にでたところで馬になって帰ってくるわけじゃねえ-

『海外でさらにステップアップ!』など、人材派遣会社の甘い勧誘に心がゆらいでませんか?

2015年1月末下記に移転しました。

http://jcvisa.info/

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【生活は楽にならない】

売り込みをしたい営業マンが、甘い言葉で誘って、ハエトリ草にかかるがごとく爆死する若者は多いかと思うのですが、久しぶりにそういうのを具現化したような記事があったのでピックアップ。

「アジア現地採用」の待遇はどんなものか?

この記事で強調しているのは…
  • 現地物価が安いこと
  • 日本語サービスがあり不自由のない暮らし
  • 日々の生活で大きく困ることはない
  • 長期休暇を取って、年に1~2回里帰りしているという人がほとんど
  • 「アジアで働く日本人」という、比較的希少な存在

しかしながら、
  • 東南アジアの物価上昇率は10%近いので、日本に比べて安い状況は続かない
  • 海外における日本語サービスは外国人向けなので現地向けに比べるとはるかに高額
  • 日本への行き帰りが駐在員と異なり自腹になるので、薄給の現地採用だと年1くらいに抑えたい
  • 「アジアで働く日本人」は、帰ってからステータスにならない(金にならない)ので、比較的希少な存在
となります。

私のように好き好んでアジアへ行って遊んで帰ってくるならともかく、キャリアアップの一環としてアジアで働くというのは、自殺行為以外の何物でもありません。
製造業がアジア各地に進出するのは、コスト削減のためなので、そこで日本人を雇わなくちゃいけないのは、現地の駐在員がコントロールできない&混乱しているというケースになります。
また、日本を始めとする先進国では、技術や専門性の深さが求められます。誰でもできる(供給側が増える)場合は、価格競争となるためです。しかし、海外で求められるのはゼネラリストです。したがって、海外でこういうキャリアを積んだ場合でも、戻って仕事が見つかる可能性は低いとなります。

それでも、みなさんは海外へ自己責任で行きたいですか?
もしも、いつの日にか日本に戻って…と思うのであれば思いとどまって下さい。
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【中国人と日本人ではライフスタイルが違う】

とある日本人がいて、中国語が喋れて、中国人の友達がいて…何一つ不自由していません。では、彼/彼女ですが、中国人と全く同じに生活できるのでしょうか?
答えから言うと否になります。

日本人が中国で生活する場合、どうしても外人プレミアムがついてしまいます。
ひとつは外人だからという理由で来るもの。
もう一つは、ライフスタイルの違いからです。

前者は日本でもよくある”外人”という理由からくるプレミアムです。一番実感するのは保険と不動産でしょう。まず、一般的な医療保険などですが、外人お断りというものがかなりあります。また、不動産については外人の中国不動産購入にはかなり制限があります。加えて、ローンなどを組もうものなら、そこでまたいろいろと制約が加わるはずです。

後者はなかなか気づかないところですが、日本人であるがゆえにというものです。
例えば、料理を自分で作る場合、中華料理を作るのであればいいのですが、もしも日本料理を作る場合、調味料や材料などが輸入モノになる可能性があります。また、日本の軟水と違って硬水の海外であれば肌荒れ対策などに日本では使ったことのないメンテ品などを使うかもしれません。病気になった時、日本では気軽に病院または薬を買いに行くかもしれませんが、中国人は医療を信用していないのでせいぜい栄養のあるスープ作って早めに寝ちゃうのが関の山です。
いくら中国語ができても、芯は日本人であるがゆえに、日本人として行動してしまうので中国人のそれと比べると明らかにコスト高になるのです。

【中国人と日本人ではライフプランが違う】

日本人は企業に勤めてずっとまたは転職しても専念して仕事するはずです。しかし、中国人の場合は、ある程度年をとったら自分で起業をしようとします(これについては別の時にまた記載します)。ずっと務める場合でも、間違いなく副業を持って機会を見つけようとします。
中国人は案外色々と副収入を持っているので、税務上例えば3,000RMBでも、実際には5,000RMBだったりするわけです。領収書いらないなら安くするよ?などと言われたことがありませんか?実はそれです。

【勧誘文句は嘘は言っていないが…】

これらを考えると、収入は中国人のそれと比べると圧倒的に高くても、中国人のそれと比べて圧倒的に大きな出費があるので、王様みたいな生活ができるわけじゃありません。
また、医療や通信インフラなど安いのですが、品質もそれなりです。もしも、日本と同レベルを求めると、日本以上にコストが掛かります。

キャリアップというのにも疑問視です。
現行の中国での仕事はあくまでも世界から来る生産の下請けやアウトソーシングがほとんどです。確かに中国市場を相手に売り込みをしている企業もいますが、中国人と同等以上の語学力や文化力がなければ、このポジションにいるのは不可能です。

市場としての中国はまだ未知数です。市場としてなるには、資本の自由、通信の自由、法規制の緩和、政府の透明化が求められます。ただ、これだけは神のみぞ知るでしょう。うまく行けば化けるかもしれませんが、それだけの足場を持っていなければ難しいです。さらにもしも、日系などにいる場合、日系は日本採用の人間を重視する傾向が強いので、日中の混血児などが送られてきた場合、中国語が出来る程度の人間だとお払い箱になる可能性が強いです。

【見えない差別も…】

心理的なストレスなども案外大きいです。
このブログの趣旨とはずれますが、現地採用と駐在員の待遇差というのはかなりすごいです。会社にもよりますが、まず駐在員の住居、それに付随する費用、医療保険、帰国費用、子女がいる場合はその学費など全て会社負担になります。これに海外勤務手当などが付きます。最近みた案件では海外勤務手当がある会社の待遇見てみると約5-10万円前後/月です。この時点で、現地採用の給与と同等かそれ以上になるはずです。
これに本給が現地採用の給与の2-3倍程度となるわけですから、駐在員の1/3-1/4程度が現地採用の給与とみていいでしょう。

駐在員が現地の言葉を喋れて、技術などがわかり、マネジメントが神がかっているのであればいいのですが、批判恐れず言うのであれば、実際は日本採用なだけという程度です。そのため、日本側と現地側で起きるジレンマに挟まれるのが現地採用の日本人になります。

これらの差を何らかにつけて見ざるをえないわけですから、そういうのを含めて、現地採用に応じる場合は考えたほうがいいでしょう。エージェントが強く勧めてくるのは、彼らの得になるからで、その得のもととなる会社にとってもお得だからということを忘れてはいけません。
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【よくある謳い文句】

”中国 就職”などで検索すると、あまたのエージェントが出てきます。多くのエージェントが謳うのはこんな感じの文句です。

  • 経済成長の著しい中国でキャリアアップ
  • 留学経験&語学力を活かす
  • 日本と中国の架け橋に
  • 仕事と生活のバランスを取りながら長期観点でじっくり
などなど。

また、よくある説明が、”中国の平均収入はx,000RMB/月程度、一般家庭収入でx,000RMB。だから、◯☓程度の収入でも十二分に生活ができる!等々…。
じゃ、実際どうなんでしょうね?

【海外展開する企業にとっての中国】

さて、ここで世界的な経済状況をみてみます。90年から始まった東西の統合、インターネットを経由したIT技術の発展からもともと”安いところで作って高いところへ売る”という動きが加速します。特に、ゴム加工や衣服、靴などの手間の掛かって単価が安い業種は、こぞってその安い供給元を探して奔走しました。そのとき、大量の安い労働力を提供したのが中国だったというわけです。

来料加工という人海戦術を使った業種をもとに中国はどんどん伸びてきました。もともと大多数が農民で、貧困と資本不足に悩んでいた中国は、この方法で両方を得ることができました。そして、外資にとっては自国の30分の1の金額の労働力を手に入れて大いに謳歌しました。

さらに、資金力をつけた中国の企業は、海外から高価な生産装置を買い集めて、OEMをやり始めました。こうして、中国は世界の工場となりました。

しかし、2000年台後半からこれが変化し始めます。
まず、中国政府が従前のこの方法を変え始めました。この手の請負生産では自国に技術が落ちないために、一時的にキャッシュが増えても、その後続きません。優遇政策の削減や、優遇の条件などを変え始めました。また、軽工業/重工業中心から先進工業10種を優先的に優遇する政策へと転換しました(2009年)

中国国内に目を向けると、鄧小平氏の富める者から富めという方法は間違っていないのですが、そもそも個人資産という所有権の概念がない中国では、資本主義的なやり方を導入した場合の不均衡の是正策が不十分です。結果、フェラーリを乗り回す人がいる一方で、医者に見てもらうお金すらない世界でも有数の格差社会になりました。ちなみに、ジニ係数は危険水域(0.4)をとっくに超えています(2011年で0.48。これは南米やアフリカと同等)

また、外資にとって魅力的だった安くて豊富な労働力は、すでに過去のものとなっています。
まず、労働力についてはあと数年で労働人口はピークに達します。工場にとって必要なのは大卒の高級人材ではなく、ワーカーです。しかし、教育熱の高まりから大学などへの進学率は2010年で25%程度と言われています。結果、大学生は卒業してもよい給与の職場が見つけられず、工場はワーカーが足りずに四苦八苦するという状況になっています(2010年でデルタ地区の労働不足は約150万と言われています)

さらに、苦労して集めたワーカーですが月額の手取りが2,500RMB(約32,000万円)を2011年後半には軽く突破し、タイとほぼ同一またはそれ以上になりました。加えて、都市教育税など不可解な税制改定が相次いでおり、企業への負担は増すばかりです。

というのを踏まえて、では、現地採用の甘い勧誘の裏を書いてみましょう。
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【オール・ジャパン】

中国にいる日本人は約13万人です。これは外務省の統計で、登録がある人たちだけなので、出張などの短期や登録していない人などを含めると15万超えるのでしょう。規模でいうと、アメリカに次ぐ文字通り第二位の邦人滞在国家です。

さて、そんな中国にいる日本人で圧倒的に多いのは駐在員と呼ばれる人たちです。ほとんどの方は、総経理(社長、GM相当)だったり副総経理(副社長相当)、または各部門のトップとして赴任しています。私の所属している(まもなく”していた”)ところは、日本ではかなり大きな会社なので、相当数の日本人が赴任しています。
こっちに来てからかなりの人数とお会いしました。しかしながら、実際に中国と接するような生活をしている人というのは、1名除いて見たことがありません。

仕事の現場となる会社では、ほぼ100%日本語です。中国語を仕方なしにしゃべる方もいるのですが、これでよくコミュニケーションが取れるなぁというレベルで、とてもじゃないですが外の人とは無理だろうという方がほとんど。
たまに誘われて一緒に食事することもあるのですが、夕食は日本料理のオンパレード。お客(お客も99%日系)と飲みに行く時は、日カラ。中カラのケースもあるのですが、間に日本語が話せる中国人が入っていたり。
極めつけは彼が住んでるマンション。ほとんどが外人向けの高級コンドミニアムだったり、ホテルタイプのマンションなどなど。当然ですが、回りにいるのは日本人中心に外人だらけ。長期休暇とかになると、国外へ脱出(人が多いという意味では確かに同感ですが…)

ということで、彼らが中国にいながら、ほとんど中国と接点がないという不思議な生活をしているわけです。
もちろん、例外的な会社もあります。が、それはほんとごく少数です。たまたま偶然かもしれません。ただ、こちらで知り合った華北、華東、華南の日系に勤めている中国人数十名と話をしてみると話がほぼ同じで、上述のとおりなのです。そして、彼らがほぼ同じくつぶやくのが『中国にいて、中国がわからないよね』ということなのです。

宋文洲さんという方が下記のような内容を書いています。

その国でビジネスする以上、その国の人々を顧客にしなければなりません。その国の社員と幹部を雇わなければなりません。その国にビジネスパートナーを探さなければなりません。すべての接点はその国の人であり、その国の人への理解、その国の人との信頼が前提となります。
無理にグローバル企業になる必要はない: 宋文洲のメルマガの読者広場

理解、信頼どちらも基礎となるのはその地への接点です。残念ながら、こういうのが完全に欠落している人たちを頂きにしているのが、(少なくとも中国にいる)日系企業なのです。
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【日本語というマイナー言語】

ダイアモンドで、”なぜ中国人は日系企業に就職したがらないのか”というコラムを掲載しています。本コラムで、金総経理はなかなか鋭いポイントを指摘しています。
  • 日本語が要求される
  • 賃金があまり高くない
  • 研修制度などが明確化されてない
  • 社員のキャリアアップが視野に入っていない
  • 現地化があまりすすんでない
  • 駐在員が上層部にいる
  • 日本の本社から干渉を受けることが多い
  • 3~5年の任期で変わる駐在員
中国は国土も大きいですが、人口も非常に多く競争の激しい社会です。他人に対する評価が厳しい分、自分自身にも厳しく接するので、優秀な人ほどしっかりとした対価を求めます。以前にライフスタイルの違いについて記載しましたが、キャリアアップをするために、将来何を目指していて、そのために今何ができて、今の何かに対してどういう報酬が出るのか?が不明確な日系企業に、優秀な人はまず来ないということです。
もう少し進めて言うと、日本語という言語はマイナー言語です。マーケットという視点から日本語というマーケットは大きいものの、それだけに絞るというのはあまり利口ではありません。日本で言うならば、これからはグローバルだ!と言いながら韓国語を学ぶようなものです。だから、日系企業内部が日本語で運営されている間は、まずは日本語という閉じられたマイナー言語の中でやりくりせざるを得ないという状況は続くのでしょう。
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